相談事例

相談事例vol.27

2022年12月13日

Q:生前の被相続人との土地の使用貸借関係に基づいて、被相続人の死後、借主に対して、土地の法定相続分に基づく地代を請求することは可能ですか?

相談の背景

被相続人名義の土地の上に、被相続人の長男の自宅が存在しているが、被相続人の生前、長男は被相続人に対して地代を支払っておらず、使用貸借関係にあった。相続の発生により、長男と同じく相続人である二男は、当該土地を売却し、法定相続分に基づいて売却代金を相続する旨を主張した。しかし、長男が今すぐには土地を売却することが難しいことを伝えると、二男は、長男に対して地代の支払いを請求してきた。長男は二男に対し、地代を支払うべきか。

A:使用貸借契約は終了しないため、長男は地代を支払う必要はありません。

弁護士 森田雅也の解説

使用貸借契約は、貸主と借主の個人的な信頼関係に基づいて設定される、目的物を無償で使用・収益できる権利です。個人的な信頼関係に基づく契約ですので、借主の死亡によって契約は終了しますが、貸主が死亡しても、契約関係は終了せず、貸主たる地位及びそれに付随する借主に無償で使用・収益させる義務が相続人に承継されます。
したがって、被相続人が死亡した段階では、使用賃借契約は終了せず、相続人たる長男及び二男に貸主たる地位が承継されるため、長男は地代を支払う必要がありません。
今回の相談事例において地代の支払い義務が生じるとすれば、遺産分割協議の結果、当該土地の所有権が二男に帰属した場合でしょう。被相続人と長男との間の使用貸借契約は、「使用貸借の期間及び使用収益の定めがない」使用貸借契約である可能性があり、このような使用貸借契約は、貸主が解約申入れをした時点で終了させることができます(民法598条2項)。したがって、所有権の二男への帰属により、「使用貸借の期間および使用収益の目的についての定めがない」ことをもって、二男は長男との使用貸借契約を解除し、賃貸借契約の締結を申し入れることができるようになります。もっとも、当該契約が真に「使用貸借の期間及び使用収益の定めがない」使用貸借契約であるかについては争われることが多く、実際は暗黙のうちに期限または目的を定めたと認定されることが多いので、その点には注意が必要です。
なお、遺産分割協議の成立をもって、当該土地の所有権が二男に確定的に帰属するため、所有権が二男にあるからといって、長男が遡及的に地代の支払い義務を負うわけではありません。

<解説>
弁護士法人Authense法律事務所
弁護士 森田 雅也
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相談事例vol.26

2022年12月13日

Q:海外に在住している相続人の所在はどうすれば分かりますか?

相談の背景

相続人調査の過程でアメリカに在住している相続人が判明したが、住民票や戸籍の附票には国名しか記載されておらず、その所在が分からない。このような在外相続人の所在調査について伺いたい。

A:親族や友人・知人への聴き取りのほか、外務省による「所在調査」や国籍喪失届・婚姻届の記載からの調査が考えられます。

弁護士 森田雅也の解説

相続人の所在調査は、住民票や戸籍の附票に記載された住所から調査することが一般的ですが、海外在住者については住民票等への住所の記載が義務付けられておらず、国名だけの記載に留まるところも少なくありません。さらには住民票等の文書保存期間は令和元年6月までは5年間であったことから、それ以前のものについては、国名すら把握できないということも起こり得ます。
このような場合、親族や友人・知人への聞き取りを広く行うことでその所在が分かることもありますが、そうではない場合、方法としては外務省による「所在調査」を利用することができます。海外に在留している日本人について、その在留国又は地域が判明している場合、在外公館が保有する資料から、当該日本人の住所・連絡先を調査することが可能です。
しかしながら、外務省による所在調査の依頼は、三等親以内の親族のほかは、裁判所や官公署、弁護士会からしかすることができないほか、そもそも所在地域が不明・外国籍に帰化しているなどの場合にはその依頼すらすることができませんので注意が必要です。
以上のような方法をもってしても、その所在を明らかにすることができなかった場合には、日本人の所在が明らかにできない場合と同様に、失踪宣告や不在者財産管理人の選任申立を検討することになるでしょう。

<解説>
弁護士法人Authense法律事務所
弁護士 森田 雅也
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相談事例vol.25

2022年11月10日

Q:戸籍の残っている外国籍相続人の相続手続きはどのように進めますか?

相談の背景

相続人調査の段階で、被相続人の姪がアメリカ在留であることが判明し、その姪の現在戸籍を取得できたことから、当該姪は在アメリカ日本人であると判断し、相続手続きを進めていた。その手続きのなかで、姪に「在留証明書」及び「サイン証明書」の取得を依頼したところ、姪から「既にアメリカ国籍に帰化している」との連絡があった。こうした場合、相続人は日本国籍と外国籍のどちらであるとして相続手続きを進めるべきでしょうか。

A: この場合、相続人はアメリカ国籍として相続手続きを進める必要があります。

弁護士 森田雅也の解説

日本人がアメリカ国籍を取得した場合、日本の国籍法は二重国籍を認めていないため、自動的に日本国籍を喪失します。しかし、日本国籍を喪失した事実が戸籍にも自動で反映されるわけではありません。外国籍取得の事実を戸籍に反映し、除籍とするためには、在外公館又は日本の市区町村役所に「国籍喪失届」を提出する必要があります。
こうした国籍喪失の届出をなんらかの理由で怠っていた場合、今回の相談事例のように、「外国籍に帰化しているのに日本の戸籍に残っている」という状況に至ってしまいます。
しかしながら、上述のように、アメリカ国籍を取得したタイミングで日本国籍を自動的に喪失していますので、現在戸籍に記載があったとしても、国籍がアメリカであることには変わりありません。
なお、相続人がアメリカ国籍の場合、「遺産分割協議書」、「宣誓供述書」、「帰化証明書」、「パスポートの写し」等をご用意の上、現地の公証人に署名してもらうことが必要となります。
 
<解説>
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弁護士 森田 雅也
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相談事例vol.24

2022年11月10日

Q:被相続人が外国籍の場合の相続放棄はどのように行うことができますか?

相談の背景

被相続人はグアム州で生まれたが、幼いころに来日して以来、ずっと日本に在住していた在日アメリカ人である。その相続手続に際し、相続人たる子は相続放棄を希望した。被相続人が外国籍である場合の相続放棄の進め方について伺いたい。

A: グアム州の法律(グアム法典)に基づいた相続手続が必要です。

弁護士 森田雅也の解説

法の適用に関する通則法第36条により、相続手続においては、被相続人の本国の相続法が適用されます。準州である場合には、その州の法令に準拠した手続きが必要です。
したがって、今回の相談事例では、グアム州の法律(グアム法典)に基づいて相続手続を進める必要がありますので、相続放棄についてもグアム法典に則って手続きを進めることが原則です。
しかし、相続財産に不動産が含まれる場合、注意が必要です。
日本は、全ての相続財産について被相続人の本国法を基準とする相続統一主義を採っていますが、国によっては、不動産については所在地の国の法律を基準とし、不動産以外の財産については本国法を基準とするという相続分割主義を採るところもあります。
アメリカは相続分割主義を採る国の代表例です。
したがって、放棄する財産に、日本国内所在の被相続人名義の不動産と金融財産が含まれている場合、不動産については日本法が、金融財産についてはアメリカ法(グアム法典)が適用されることになります。
日本法における相続放棄の熟慮期間は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月ですが、グアム法典における熟慮期間は権利が発生してから9カ月以内と定められています。当然、相続放棄に係る必要書類も適用される国の法律によって変わってきますので、被相続人が外国籍である場合には、正確に準拠法を確認し、適用される法律の内容を詳しく調べることが不可欠です。
 
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相談事例vol.23

2022年10月13日

Q:被相続人の多額の負債を相続せずに被相続人名義の家屋に住み続ける方法はありますか?

相談の背景

被相続人の相続財産には多額の負債のほか、妻との共有名義である家屋も存在し、妻が現在も生活の拠点としている。被相続人の負債を負担するほどの余裕はないが、自宅不動産に住み続けたいと考えている。どのような方法があるか教えて欲しい。

A: 限定承認をすることで、自宅不動産に対する先買権を行使し、自宅不動産を購入することが可能です。

弁護士 森田雅也の解説

先買権とは、限定承認をした相続人に認められる権利で、相続した不動産が競売にかけられた場合に、その不動産を優先的に購入することができるものです。
限定承認の手続きは「限定承認の申立てと債権者への催告」、「不動産鑑定」、「債権者への弁済・名義変更」に大分されます。ここでは相続人が先買権を行使し、被相続人名義の家屋に住み続けるための「不動産鑑定」の段階でのポイントをお伝えします。
「不動産鑑定」の段階では、具体的には「鑑定人の選任申立」と「不動産鑑定額の入金」が必要となります。
「鑑定人の選任申立」においては、先買権を行使したい理由(今回の相談事例においては「相続財産たる家屋に住み続けたい」旨)を明確に示す必要があります。鑑定人については推薦することが可能ですが、官報公告や催告のための郵送料が経費として相続財産から控除可能なのに対し、鑑定費用は相続人負担となる点に注意が必要です。
不動産鑑定人が選任されると、具体的な不動産鑑定額の査定が始まりますが、この鑑定においては今回の相談事例のような建物のみの鑑定であっても「土地上の家屋」として評価がなされます。したがって、鑑定人による鑑定額が、固定資産税評価額と大幅に異なることもありえます。
さらに、不動産家屋に対する先買権の行使のためには、「不動産鑑定額の入金」の段階で、負債の精算のために鑑定額相当のキャッシュを用意する必要があります。上述のように、この鑑定額相当の金額は固定資産税評価額と大きく異なることもあるため、相続人が十分に準備できるのかが大切になります。
以上のように、不動産鑑定においては、その費用が相続人負担である点、鑑定額が固定資産税評価額とは異なり得る点に注意が必要です。
 
<解説>
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弁護士 森田 雅也
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