相談事例

相談事例vol.20

2022年07月26日

Q:錯誤を理由とする取消は認められますか?

相談の背景

被相続人の債務超過を理由に相続放棄をしたところ、その後に債務超過を解消するほどの隠し資産の存在が明らかになった。錯誤を理由にこの相続放棄を取り消すことはできるか。

A:債務超過を放棄の理由としたことが示されており、かつ隠し資産の存在を知らなかったことに重大な過失がなかった場合には、認められる可能性があります。

弁護士 森田雅也の解説

基本的には「財産が無いと思って相続放棄したが、実は財産があることが分かった」などの場合は、相続放棄の「撤回」にあたり、これは原則として認められていません。
しかし、こうしたケースでも、錯誤にあたる場合には、取消が認められる可能性があります。
相談内容にある「錯誤」は、「表意者が法律行為の基礎とした事情についてその認識が真実に反する錯誤」(民法95条1項2号。いわゆる「動機の錯誤」)にあたります。
錯誤には、意思表示に対応する意思を欠く錯誤(民法95条1項1号。いわゆる「表示の錯誤」)と、表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤(民法95条1項2号。いわゆる「動機の錯誤」)がありますが、もともと相続放棄をするつもりで放棄している以上、意思表示に対応する意思を欠く錯誤(「表示の錯誤」)とはなりえず、相続放棄を決意するに至った事情についてその認識が真実に反する錯誤(「動機の錯誤」)だと考えられます。
旧民法下での錯誤に基づく相続放棄の法的効果は、「無効」であったため、無効である旨の家庭裁判所への申述の可否が問題でした。
これについて、錯誤に基づく相続放棄が無効であることを認めつつも、家庭裁判所への申述を認めず、別途無効等確認訴訟の提訴が必要であるとの判断を示した裁判例が存在します。(福岡高裁平成10年8月26日判決)
この点、錯誤の法的効果を「取消」と定める改正民法によれば、相続放棄の取消については、家庭裁判所に取消申述ができると解釈することもできます。
しかしながら、上述の「動機の錯誤」に基づく取消は、錯誤のあった事情が相続放棄の理由として表明されており、かつその錯誤に重大な過失がなかった場合にのみ認められます(民法95条2項)。
つまり、今回のケースでは相続放棄申述書に、放棄の理由として、被相続人が債務超過であったことが記載されているなど、基礎事情としたことが表明されていることが必要です。さらに、表明されていたとしても、調査をすれば容易に勘違いに気付けたはずであるとして、重大な過失がないことが認められない可能性もあります。

<解説>
弁護士法人Authense法律事務所
弁護士 森田 雅也

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