相談事例vol.8
2021年12月23日
Q:賃貸住宅で借主が孤独死(病死)した場合の連帯保証人の損害賠償の対象についてお伺いしたい。
相談の背景
相談者の兄弟が賃貸住宅で孤独死し、明確な死因は不明だが、病死という診断書がでた。相談者は被相続人自宅の賃貸アパートの連帯保証人だったため特殊清掃・残置物の撤去は連帯保証人の立場として業者へ依頼し、既に済んでいる。
汚れた部分の原状復帰を行う段階で、不動産管理会社より「以降この部屋は告知事項を出して貸しに出さないといけないため、減額せざるを得ない家賃を補填する月1万円×24か月分を払って欲しい。合意書も現在準備している」と言われてしまった。
告知事項を出す要因が、故意・過失に依るものであれば支払いの対象としても考え得るように思えるが、事故死・病死がそこに該当するのか、意見をお伺いしたい。
A:特殊清掃代の支払い義務は負うとしても、心理的瑕疵物件になったことにともなう賃料の減額分の賠償(逸失利益の賠償)までは義務がない可能性が高いのではないかと思います。
弁護士 森田雅也の解説
そもそも、孤独死の原因が病気などの自然死である場合には、孤独死であるからといって、直ちに、亡くなった方の居住していた物件が心理的瑕疵のあるいわゆる事故物件とされるものではありません。
いただいたご相談をもとに判例の調査をしたところ、以下のような事例がありました。
「アパートの一室で賃借人が死亡し、死後1か月後に、隣人から異臭やうじ虫の発生について通報を受けた警察官らとともに賃貸人が室内に入ったことを契機として発見された事例において、心理的瑕疵が認められ、減額賃料分(1年間は賃貸不能、2年間は7万円を5万3000円に減額しないと賃貸不能)の賠償が認められた事例。」(東京地判平成29年2月10日)
この事案では、以下の事情があります。
- 1か月ご遺体が放置され、異臭やうじ虫が発生しており、近隣住民に嫌悪感をもたらした。
- 本件貸室には特殊清掃後もなお、同体液によるとみられる強い異臭が生じていた。
- 遺体発見から4か月が経過した後も居住物件として利用が困難な状態にあった。
上記事例とご質問いただいた事例を比較すると、長期間の放置とは言えず、遺体の腐乱による害虫の発生もなく、臭気もすぐに改善されたことなどから、一般人にとって嫌悪感・不快感が生じたとまでは言えず、心理的瑕疵にあたらない可能性も十分にあると思います。
よって、原状回復のための特殊清掃代の支払い義務は負うとしても、心理的瑕疵物件になったことに伴う賃料の減額分の賠償(逸失利益の賠償)までは義務がない可能性が高いのではないかと思います。
<解説>
弁護士法人Authense法律事務所
弁護士 森田 雅也
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